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俳句フォトエッセイ

うねうねと花芽伸ばしぬ紫木蓮

前にも書いたが、ぼくは毎週この道を通って妻が世話になっているグループホームに通う。この紫木蓮は瀟洒な住宅の庭にある。つい先日、毛むくじゃらの花芽が姿を見せたかと思ったら、もう花が開き始めた。季節の移ろいは早い。紫木蓮で思い出すのは、鈴木真砂女の句だ。戒名は真砂女でよろし紫木蓮紫木蓮が坊主の袈裟を思わせる。取り合わせの傑作だ。考えてみれば、我が家も戒名に無関係だ。父の小山正孝の戒名はない。母の常子の戒名もない。それどころか、仏壇もなければ位牌すら無い。葬儀は葬儀社を通して禅宗の僧侶に頼んだのは、正孝が禅というものに興味を示していたからに過ぎない。

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立春のジャムはオレンジママレード

このオレンジママレードを見た途端、記憶が48年前に飛んだ。プラスチックの容器に入ったジャムを初めて見たのは、JALパックで行ったヨーロッパ旅行だった。こどもができたら、行けない。その前に行こうと妻と話した。1ドル360円の時代で、トラベラーズチェックというものがまだあった。相当なお金が掛かったと思われるが、妻が全て切り盛りしてくれた。アンカレジを経由してオランダのアムステルダムからロンドンに入った。赤い二階建てバスに目を丸くした。そして朝食についてくる「ジャム」!これはヨーロッパ旅行の象徴だった。今なら、それが安上がりなのだと分かるが、初めて見た目には、実に新鮮だったのだ。

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春来たり夢の未来へ飛び立たん

春を思わせる一日、多摩川沿いを散歩していると、ホテルに目がとまった。ただのホテルではない。飛びっ切りおしゃれなホテルだ。ロビーに入ると、アメリカの西海岸にでもいるような気分になってくる。いかにもやり手に見えるビジネスマンが、テーブルでパソコンに向かう。ディスカッションしている若い人たちの姿も。京急大師線の小島新田駅から歩いたら、20分もかかるだろう。バスの便だって良くない。こんな不便な場所に、なぜこんなおしゃれなホテルがあるのか、不思議に思った。名前は?見ると「キングスカイフロント東急REIホテル」とある。キングスカイフロントとは、すごい名前だ。

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足裏の痛くて冷たくて縄文の湯

南武線に乗ったついでに、川崎方面に向かい、矢向で降りた。「矢向」の地名の由来は新田義貞まで遡るらしい。降りたわけは、ここに「志楽の湯」という温泉があるからだ。正月以来温泉に凝っている。溝口温泉、綱島温泉、そして今度はここ志楽の湯というわけだ。川崎区にも宮前区にも温泉があるらしい。そのうちそちらも制覇したい。さて、志楽の湯は住宅街の中にあった。「縄文の湯」というぐらい、風情がある。まるで鄙びた温泉宿のようだ。靴箱は昔ながらの木札。サウナはあるが、他にもあるような特別な湯はない。しかし、広い露天風呂があり、何とも休まる。次々に客が入ってくる。仕事帰りらしい人が多い。

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何処からかお昼のチャイム春隣

久しぶりの何の予定も入っていない一日。暇なので、多摩川に出かけた。まだ寒の内というのに日差しは春だ。風もない。橋を渡れば府中だ。是政橋の上に立って多摩川の流れを眺める。遠くには二子玉川のビル群らしきものが見える。最近雨が少ないせいか、多摩川の水量は少ない。鴨の一群が水脈を引いて泳いでいる。それ以外、川面はどこまでも静かだ。時折ジョギングをする人やサイクリングの自転車が通る。土手には桜の並木が続いている。桜は既に固い蕾はをつけているに違いない。ここも桜の名所の一つなのだろう。突然、従兄弟に鮎釣りに連れてきてもらったことを思い出した。川崎市には川崎区から多摩区まで七つの行政区がある。

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まずは割るタグの付きたる松葉蟹

松葉蟹を一人一杯ずつ食すという贅沢なパーティに参加した。昨年に続いて二回目である。昨年ある方から誘われたのがきっかけだ。場所は虎ノ門のとあるイタリアンレストラン。主催のNさんは、広島で会社を経営されていて、驚くほど幅広い人脈をお持ちの方だ。大手新聞の現役の記者、日本銀行のOB、会社の経営者、作家、IT技術者、様々な職種の方が参加されている。その中に今年は、通訳をされている方や音楽教育に携わっている方、元アイドルで歌手、ラジオのパーソナリティもされている方もいらした。多彩だ。男性群は会社関係、女性群は自ら起業されている方が多いという印象。

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珈琲を飲んだ分だけ春になる

この日はまる一日病院で過ごした。不整脈が見つかったので、徹底的に検査するためだ。最初は固定式の自転車を漕いで、心電図を撮る負荷心電図の検査だ。少しずつペダルが重くなるが、それに負けずに漕ぎ続け、心電図の波形を捉える検査である。目の前のモニターに心拍数や波形が映し出される。波形が千千に乱れているように見える。八分間漕ぎ続け、ようやく終わりの合図があった。久しぶりの運動だった。運動している間に薬液が注入された。心臓シンチ検査のためだ。一欠片のチョコレートが手渡された。これを食べると検査の精度が上がると言う。経験則によるものだろう。それともマニュアルに書いてあるのだろうか?不整脈は昔からあった。

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図らずも出逢ひぬ梅の花梅の花

梅の花の見事さに思わず見惚れてしまった。ここは、川崎市の宮前区有馬というところだ。田園都市線の鷺沼からバスで15分程度だろうか。先日の北鎌倉の吟行では、梅の花の蕾すら見つからなかったというのに、何という違いだ。しかし、梅を見るためにここに来たわけではない。三峰神社があると言うので、坂道を登ってきて、偶然に出逢ったというわけである。三峰神社は狼の神社である。近くに映画を見たついでに寄ったのだ。「狼の護符」というドキュメンタリー映画である。上映会が、ここ有馬野川学習センターで行われた。制作者の小倉美恵子さんのトークイベントもあるという。

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春を待つ如何にも干支の顔をして

陶芸教室の前に並べられた干支の小さな植木鉢だ。古い木造の陶芸小屋の中ではレッスンが行われている。もう使われていない煉瓦の窯は魯山人の窯だと誰かが言う。その庭で珈琲を啜りながら一時を過ごした。蝋梅が香ってくる。Mさんが、「これは、同じ蝋梅でも素心蝋梅というのよ」と教えてくれた。まだ寒の内だが、風もなく暖かい。日差しは春のようだ。道の脇には著莪が群れている。「花の咲く頃来たら綺麗でしょうね」北鎌倉の吟行会である。今日の目的地の一つは、浄智寺である。鎌倉十井の一つ、甘露の井があり、階段をのぼると花頭窓のある鐘撞堂が待っている。鎌倉七福神の一つ布袋尊が如何にも穏やか表情を浮かべている。

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ぽつねんと守衛が一人冬深む

ここが何処だかお分かりであろうか。実は日本銀行なのだ。日本橋を歩いていたら、突然ここに出た。まじまじと日本銀行を眺めるのは、初めてのことだ。新しく精緻な紙幣が発行されたが、電子マネーに押されて現物は使われない時代になってしまった。失われた三十年と言われるが、日本経済は一体どうなってしまったのか。玄関に立つ守衛も何となく頼りなげに見える。日本銀行で思い出したのは大俳人金子兜太だ。兜太は日本銀行に定年まで勤めた。「窓際族どころでなく、窓奥族であったからものが書けた」と述べている。金子兜太は、俳句界の一方の雄であった。現代俳句協会を率い、影響力は俳句界にとどまらなかった。