とんかつの脂の匂ひ蜆汁
とんかつに味噌汁は付き物だ。具はさまざまだが、ぼくは蜆汁がいい。箸に当たる蜆の感触、コクのあるだしが何とも言えない。とんかつの脂っこさが途端に消える。「蜆汁」は春の季語だ。蜆と言えば、宍道湖、松江である。 NHKの朝ドラ「ばけばけ」で松江はずいぶん賑わっているらしい。俳人辻桃子は「宍道湖の今朝の濁りや蜆汁」と詠んだ。蜆には旬が年に2回あるとされているが、産卵を控える春が1番美味だという。身が肥え始め、味が濃く、だしがよく出るからだ。かつて、神保町に「いもや」というとんかつ屋があった。いつ行っても行列だった。メニューはロースかつとヒレかつの2つだけ。それに大鍋から無造作に掬った蜆汁が付く。



