俳句フォトエッセイ2026.02.19ぼくたちはどう老いるのか月朧小山正見信頼する友人から一冊の本を勧められた。高橋源一郎の『ぼくたちはどう老いるか』(朝日新書)である。早速手に入れて、読んだ。第1章では鶴見俊輔の『もうろく帖』が取り上げられている。老いは新たな体験であり、その先には死がある。そこに至る過程はどのようなものか。『もうろく帖』では本人の筆でそれが書かれている。しかし、「もうろく」してしまってもさらに死までの過程がある。それを本人が書くことは不可能だ。次の章で取り上げられているのは家族から見た老いと死である。吉本隆明の死に様。有吉佐和子の『恍惚の人』が紹介され、最後が私小説作家耕治人が認知症の妻とのことを死ぬ間際に書いた三つの小説である。身につまされる話だ。最後の章は高橋源一郎の弟の「トシちゃん」の死の話で終わる。認知症の話は、妻のことがあるから理解できる。妻は早くに言葉を失ったので、ぼくは妻から「あなたは誰?」と聞かれる不幸を免れたのかもしれないと思った。ぼくが死について最初に考えたのは小学校4年生の頃だった。言いようのない不安に襲われた夜を覚えている。高校1年の時に祖母が亡くなった。葬儀のことはまるで記憶にないのに、学校から帰宅した時の「忌中」の貼紙だけが妙に記憶に残っている。父が死んだ時は枕元に居た。心電図の波形が消え、緑色の画面に真っ直ぐな横線だけが残った。父の詩友であった鈴木亨さんに電話で父の死を伝えた。生活を共にした何人もの友人が既にこの世の人ではなくなっている。今朝も友の訃報が届いた。「死んだ人は自分が死んだことがわからない」と言うが、死は恐怖だ。ある時は、山田風太郎の『人間臨終図鑑』を貪り読んだ。◯◯歳で死んだ人、◯◯歳で死んだ人と、若い順に並べられている。厚い文庫本で3冊にもなる。その縁で山田風太郎の『あと三千回の夕食』も読んだ。ぼくも同じような歳になっている。父は86歳で死んだ。その歳まで生きることが目標だが、あと8年しか残りはない。今夜は茄子炒めを作って1人で食べたが、ぼくに残された夕食もあと三千回を切った。死ぬことは怖いが、意外と老いることについては、考えたことがなかったことにも思い至った。耳もだんだん遠くなってきたし、階段の上り下りは必ず手すりに頼るようになった。しかし、できることをできる範囲でするということは、若い時と何も変わるところがない。明日は明日、できることをするしかないと思うのである。
信頼する友人から一冊の本を勧められた。高橋源一郎の『ぼくたちはどう老いるか』(朝日新書)である。
早速手に入れて、読んだ。
第1章では鶴見俊輔の『もうろく帖』が取り上げられている。
老いは新たな体験であり、その先には死がある。そこに至る過程はどのようなものか。『もうろく帖』では本人の筆でそれが書かれている。
しかし、「もうろく」してしまってもさらに死までの過程がある。それを本人が書くことは不可能だ。
次の章で取り上げられているのは家族から見た老いと死である。吉本隆明の死に様。有吉佐和子の『恍惚の人』が紹介され、最後が私小説作家耕治人が認知症の妻とのことを死ぬ間際に書いた三つの小説である。身につまされる話だ。
最後の章は高橋源一郎の弟の「トシちゃん」の死の話で終わる。
認知症の話は、妻のことがあるから理解できる。妻は早くに言葉を失ったので、ぼくは妻から「あなたは誰?」と
聞かれる不幸を免れたのかもしれないと思った。
ぼくが死について最初に考えたのは小学校4年生の頃だった。言いようのない不安に襲われた夜を覚えている。
高校1年の時に祖母が亡くなった。葬儀のことはまるで記憶にないのに、学校から帰宅した時の「忌中」の貼紙だけが妙に記憶に残っている。
父が死んだ時は枕元に居た。心電図の波形が消え、緑色の画面に真っ直ぐな横線だけが残った。父の詩友であった鈴木亨さんに電話で父の死を伝えた。
生活を共にした何人もの友人が既にこの世の人ではなくなっている。今朝も友の訃報が届いた。
「死んだ人は自分が死んだことがわからない」
と言うが、死は恐怖だ。
ある時は、山田風太郎の『人間臨終図鑑』を貪り読んだ。◯◯歳で死んだ人、◯◯歳で死んだ人と、若い順に並べられている。厚い文庫本で3冊にもなる。その縁で山田風太郎の『あと三千回の夕食』も読んだ。
ぼくも同じような歳になっている。父は86歳で死んだ。その歳まで生きることが目標だが、あと8年しか残りはない。今夜は茄子炒めを作って1人で食べたが、ぼくに残された夕食もあと三千回を切った。
死ぬことは怖いが、意外と老いることについては、考えたことがなかったことにも思い至った。
耳もだんだん遠くなってきたし、階段の上り下りは必ず手すりに頼るようになった。しかし、できることをできる範囲でするということは、若い時と何も変わるところがない。明日は明日、できることをするしかないと思うのである。