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市振

俳句フォトエッセイ

こぼれても亦こぼれても萩の花

今年は、残暑もあまり感じないままに秋が深まってきた。いつの間にか曼珠沙華が咲き、金木犀の香りが漂ってくる。しかし、秋の花の代表は、やはり萩だろう。草冠に秋と書いて「萩」。字そのものから、萩は秋の花であることがわかる。詩歌の世界では萩は秋の欠かせない題材である。遡れば、万葉集でも萩を詠んだ歌は多いという。山上憶良は、秋の七草の先頭にこの「萩」を挙げている。俳句の世界で有名なのは、『おくのほそ道』での芭蕉と、その旅を共にした曾良の句である。芭蕉は、市振の宿で伊勢に向かう遊女を哀れに思い、同行させてほしいという願いを断りながらも《一家に遊女も寝たり萩と月》と詠んだ。

俳句フォトエッセイ

雨粒を纏ひて萩の溢れをり

雨の中の萩は、一層風情を増すように思える。葉に雨粒が丸く浮かんでいる。朝起きたら、一面に萩がこぼれ無数の花が散っていた。芭蕉の「奥のほそ道」に一つ家に遊女も寝たり萩と月がある。市振という宿で遊女に「旅の道連れにしてくれないか」と頼まれる有名な場面だ。この句については、芭蕉の創作ではないかという説が有力である。いかにも出来すぎているからだろう。その証拠は同行した曾良の日記には一言も触れられていないということらしい。俳句は全て事実というわけでは無さそうだ。それにしても上手い。萩が出てくることで、遊女の哀しさがほのかに感じられる。