俳句フォトエッセイ2025.07.26「国境の花屋」の舞台涼しかり小山正見文法的に言えば、この「涼しかり」という使い方は、誤りのようだ。しかし、石川啄木に「かくかくに渋民村は恋しかり/おもいでの山/おもいでの川」があり、このことについて、俳人の仁平勝は通じたのだからいいじゃないかと開き直り、山本健吉の「学者より詩人が母国語の法則を直感的に把握している」という言葉を引いている。もっとも、ぼくの場合は苦し紛れに使っているだけだが(笑)「国境の花屋」は、劇団遊戯により、7月4日〜6日まで神奈川青少年センターで行われている演劇公演である。主演で花屋の主人を演じるわたなべひろみさんからご案内をいただき、初日の舞台を観に行ったというわけである。会場に入ると目の前に花屋の美しい舞台が設えてある。7割方の座席は埋まっていたが、一番前の真ん中という絶好の位置の椅子が空いていた。坐ってから気がついたのだが会場の端に男が4、5人俯いて座り込んでいる。役者だ。開演までまだ20分もあると言うのに、すでに芝居は始まっているのかもしれない。森下にあったベニサンピットで見た、蜷川幸雄の実験劇を思い出した。その劇では、役者は、舞台の一方に設えられた壁からロープを使って降りてきた。そして芝居が終ると同じ壁を登って姿を消した。中には、芝居の最初から終りまで壁にぶら下がったままの役者もいた。いろんなことを考えるものだ。蜷川の実験劇には、1時間近い上演時間のほとんど舞台に雨が降り続き、役者はびしょ濡れで演技したものもあった。また同じ台本の戯曲を異なる演出で2回上演するのもあった。そんなことを思い出した。芝居が始まると同時に、座り込んでいた役者は立ち上がり、光の差す方へ一目散に駆け出した。幕が降りた時、この芝居の全てがこの一瞬に集約されていると思った。芝居全体は、決してハッピイエンドと呼べるものではないのだが、光のある方に向かって走るというメッセージは、強烈にぼくの中に残った。それにしても、生の芝居というのはすごいものだ。一番前で観ていたせいもあるのだろうが、肉体がそのままぼくにぶつかり、ぼくの中入ってくるのではないかという迫力を感じた。役者の肉体が空気を作り、それが波のように礫のように伝わってくるのだ。熱い、とてつもなく熱い芝居であったが、昼の暑さを忘れた涼しさだけがぼくの中に残った。良い芝居を観た。https://www.pref.kanagawa.jp/docs/yi4/theatre/2025/gekidanyuugi.html
文法的に言えば、この「涼しかり」という使い方は、誤りのようだ。
しかし、石川啄木に「かくかくに渋民村は恋しかり/おもいでの山/おもいでの川」があり、このことについて、俳人の仁平勝は通じたのだからいいじゃないかと開き直り、山本健吉の「学者より詩人が母国語の法則を直感的に把握している」という言葉を引いている。
もっとも、ぼくの場合は苦し紛れに使っているだけだが(笑)
「国境の花屋」は、劇団遊戯により、7月4日〜6日まで神奈川青少年センターで行われている演劇公演である。
主演で花屋の主人を演じるわたなべひろみさんからご案内をいただき、初日の舞台を観に行ったというわけである。
会場に入ると目の前に花屋の美しい舞台が設えてある。7割方の座席は埋まっていたが、一番前の真ん中という絶好の位置の椅子が空いていた。
坐ってから気がついたのだが会場の端に男が4、5人俯いて座り込んでいる。役者だ。
開演までまだ20分もあると言うのに、すでに芝居は始まっているのかもしれない。
森下にあったベニサンピットで見た、蜷川幸雄の実験劇を思い出した。その劇では、役者は、舞台の一方に設えられた壁からロープを使って降りてきた。そして芝居が終ると同じ壁を登って姿を消した。中には、芝居の最初から終りまで壁にぶら下がったままの役者もいた。いろんなことを考えるものだ。
蜷川の実験劇には、1時間近い上演時間のほとんど舞台に雨が降り続き、役者はびしょ濡れで演技したものもあった。また同じ台本の戯曲を異なる演出で2回上演するのもあった。そんなことを思い出した。
芝居が始まると同時に、座り込んでいた役者は立ち上がり、光の差す方へ一目散に駆け出した。
幕が降りた時、この芝居の全てがこの一瞬に集約されていると思った。
芝居全体は、決してハッピイエンドと呼べるものではないのだが、光のある方に向かって走るというメッセージは、強烈にぼくの中に残った。
それにしても、生の芝居というのはすごいものだ。一番前で観ていたせいもあるのだろうが、肉体がそのままぼくにぶつかり、ぼくの中入ってくるのではないかという迫力を感じた。役者の肉体が空気を作り、それが波のように礫のように伝わってくるのだ。
熱い、とてつもなく熱い芝居であったが、昼の暑さを忘れた涼しさだけがぼくの中に残った。良い芝居を観た。
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/yi4/theatre/2025/gekidanyuugi.html