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芭蕉

俳句フォトエッセイ

花木槿うす紫の濡れそぼる

友の家に行く途中に木槿の花を見つけた。どちらかといえば、少数派の薄紫色。それも半八重だ。雨に濡れてひっそりとした風情があり、つい立ち止まってしまった。木槿は、一般に一日花と言われる。朝咲いて、夕方には花がしぼむからだ。しかし、この木槿は夕闇が迫っているのに一向にしぼむ気配がない。木槿という花を知ったのは、芭蕉の『野ざらし紀行』の句《道のべの木槿は馬にくはれけり》からである。実物を初めて見たのは、江東区の芭蕉記念館である。ここの庭には芭蕉が詠んだ植物が所狭しと植えられており、「馬にくわれたのはこの木槿か」としげしげと眺めた記憶がある。それ以降、町のあちらこちらに木槿の花が咲いていることを知った。

俳句フォトエッセイ

芭蕉から始まる新春講座かな

講師は渡邊尚代先生である。彼女は欧米文学の専門家で、神保町にある児童書専門店のブックハウスカフェを会場に、長年講座を続けてこられた。昨年あたりから、尚代先生は芭蕉の『おくのほそ道』に相当に興味を持たれたようだ。その尚代先生は、行動の人である。早速、日光の裏見の滝に出かけ、平泉にも立石寺にも足を伸ばされた。足で現地を見なければ真髄はわからない、というのが尚代先生の考え方である。そして、数十ページにわたる詳細なテキストが用意されての講座であった。芭蕉が活躍した時代は、シェークスピアやセルバンテスと近いという。欧米文学を知り尽くした尚代先生ならではの視点である。

俳句フォトエッセイ

雨粒を纏ひて萩の溢れをり

雨の中の萩は、一層風情を増すように思える。葉に雨粒が丸く浮かんでいる。朝起きたら、一面に萩がこぼれ無数の花が散っていた。芭蕉の「奥のほそ道」に一つ家に遊女も寝たり萩と月がある。市振という宿で遊女に「旅の道連れにしてくれないか」と頼まれる有名な場面だ。この句については、芭蕉の創作ではないかという説が有力である。いかにも出来すぎているからだろう。その証拠は同行した曾良の日記には一言も触れられていないということらしい。俳句は全て事実というわけでは無さそうだ。それにしても上手い。萩が出てくることで、遊女の哀しさがほのかに感じられる。

俳句フォトエッセイ

我が街に降臨したり大西日

元住吉の駅を降りたら、写真のような光景だった。街が夕方の光にすっぽりと包まれている。すごい衝撃だった。慌てて、スマートフォンをお尻のポケットから出して、シャッターを切った。こんな景色はすぐに消えてなくなってしまうからだ。俳句フォトについて、よく質問を受ける。「写真と俳句では、どちらが先ですか?」というものだ。新聞小説には、必ず挿絵があるし、芭蕉の句に絵が付けられた「俳画」というものもある。この考え方だと、俳句や文章が先にあり、絵や写真は後からつけることになる。ぼくもたまには、そういう作り方をすることもある。

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やうやくに蝉時雨とはなりにけり

「色んなところに行ってますね!」とか「精力的ですね」などとFacebookやInstagramを見た友人から言われる。本人はその気はないのだが、見ようによっては生き急いでいるように見えなくもない。写真の場所は杉並区の蚕糸の森公園である。「蚕糸」は「さんし」と読む。養蚕の「さん」だ。友人から日本舞踊の会の案内をいただいた。その会場のすぐそばにあった。駅で言えば、地下鉄丸の内線の東高円寺である。かつて農林水産省の蚕糸試験場があった場所だ。公園の中から聞こえてきたのは、「蝉時雨」である。今年はじめて聞く「蝉時雨」だ。朝、一匹の蝉の死骸が我が家の玄関に落ちていた。

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夏の月煌々として隅田川

写真は、隅田川に架かる清洲橋である。ライトアップされた姿には惚れぼれしてしまう。清洲橋は、ドイツのケルンにあるヒンデンブルグ橋がモデルと言われる。現在は、国の重要文化財に指定されている。隅田川には、千住大橋から勝鬨橋まで大きな橋が15架けられている。勝鬨橋は、大きな船を通す時に中央が跳ね上がる構造になっている。ぼくは、その跳ね上がった姿を見た記憶がある。自動車の交通量が多くなり橋の開閉が中止されたのは1970年だそうだ。ぼくに一番縁がある橋は、新大橋である。新大橋と言っても最近架かった橋ではない。江戸時代、芭蕉の生きた時代の橋である。

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花の夢『俺の細道』てふ句集

季語「花の夢」は集中よりとったが、この句集はぼくにとっては夢物語だという意味である。句集『俺の細道』の著者、藤英樹さんは元東京新聞の記者で、歌舞伎など古典芸能の専門家だ。現在は長谷川櫂氏が主宰する「季語と歳時記の会」の機関誌「きごさい」の編集長もされている。句集の名前から想像できるようにこの句集は芭蕉の奥の細道に因んだ句集だ。ところが、尋常ではない。芭蕉の歩んだ全行程を全て徒歩でそのまま辿ったというのだ。所々歩く人はよくいるが、全行程踏破した俳人は林誠司さんの他知らない。最初の句は草餅をたうべて矢立初めかな気負いがないが、さぁやるぞという気分が伝わってくる。

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暑き日を落として海の観覧車

暑き日を海に入れたり最上川という有名な句が芭蕉にある。比ぶべきもないが、写真と合わせ技にすると少しは涼感が伝わるのではないか。この観覧車は、1990年に開業したみなとみらいの遊園地コスモワールドにある。元々は、横浜博で設置されたものだが、ここに移設されたらしい。夜になるとライトアップされ美しい。ここの遊園地には、確かジェットコースターもあったはずだ。左側の羽を広げたかのような建物はヨコハマインターコンチネンタルホテルである。開業は35年ほど前だが、ヨットの帆を模したおしゃれなホテルだ。みなとみらい地区の再開発のシンボル的存在だろう。何度か泊まったことがある。

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ぽつねんと烏のとまり春を待つ

何処かで見たようなフレーズだと思ったら(笑)芭蕉の「枯れ枝に烏のとまりけり秋の暮」にそっくりだ。俳句の世界もどの世界も早い者勝ちである。芭蕉にこの名句がある以上、枝に烏の句は二番煎じを免れない。先日、神保町で渡邊尚代先生の「ひさよの絵本講座」があった。欧米文学が専門のひさよ先生が「芭蕉と奥の細道」を語るというので、興味があった。24ページにわたる詳細な資料が用意され、各ページにひさよ先生の詳細な書き込みがされている。ひさよ先生は深川の芭蕉記念館をはじめ、芭蕉関係の史跡を歩き、自分の目で確かめられた。千住や草加、日光、那須の黒羽まで足を伸ばし、芭蕉の足跡を辿っておられる。