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映画館なけれど六区夏は夏

小山正見

暑い日だったが、約束があって浅草に出かけた。
最近の浅草は、外国人観光客も多く賑わいは半端ではない。
人力車のお兄ちゃんが声を張り上げている。浴衣を着た女の子が形ばかりに扇子をあおいでいる。
新仲見世に入るとすぐ右側に鰻のつるやがある。多くの店が変わる中でここは健在だ。今半本店も賑わっている。驚いたのは、もんじゃ焼きの店が増えたことだ。昔は浅草のもんじゃと言えば、染太郎と相場が決まっていたが、新仲見世だけで、新しい店が5軒あった。加えて増えたのは包丁屋だ。いったいどういう理由なのだろうか。
唐辛子の薬研堀は昔と少しも変わらない。
隣に店を構えていた「余荷解屋(よにげや)」が懐かしい。叩き売りの店で3人の兄ちゃんが交代で口上を述べ、ライターや時計などを売る。20 代だったぼくは、その前で30分も1時間も聞き惚れたことがある。
鮨屋横丁から鮨屋がなくなり、六区からは映画館が消えたが、違った賑わいがあった。巨大なドンキホーテのビルやユニクロの店があったが、その一方、洋食のリスボンも浅草演芸ホールフランス座は昔のまま生き残っている。
ぼくの六区での一番の記憶は、40代の頃だ。道を歩いていたら、突然
「あんちゃん、仕事あるよ」
と声をかけられたことだ。
あの時と同じ暑い日が六区を今も照らしててる。