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走り梅雨心を癒す珈琲屋

小山正見

ぼくの住んでいる元住吉の唯一の本屋だった「住吉書房」が無くなって、本と自然に触れることができなくなった。もう一つ困ったことは文房具も買えなくなったことだ。住吉書房は文房具屋も兼ねていたからである。
タックシールが必要になった。何処に買いに行こうか。日吉や自由が丘にも売っている店はありそうだ。しかし、行ってもし無かったら出直しになってしまう。渋谷の東急ハンズなら絶対ある。そこで渋谷まで出かけた。
渋谷の雑踏はぼくは嫌いではない。あのごった返すような雰囲気。騒音が宇宙背景放射のように迫ってくる。崩れた若さが四方八方に飛び散っている。
唇に5つも6つもピアスをした女の子がいるかと思うとイヤリングに鼻輪をした男の子もいる。彼らはぼくとは全く違う世界に住んでいるのだろう。
我々が認識できる宇宙は数%に過ぎないと言うが、ぼくも日本人の数%の世界しか知らないのかもしれない。自分の感覚が普通だと思ったらとんでもない間違いなのだろう。
途中にドンキ•ホーテがあった。ドンキは備蓄米を売る業者の一つにも入っていた。今や大企業だ。
「今はどうなっているのか」
訳のわからない売場を巡ってみた。客の8割は日本人ではなかった。大きな籠にお菓子や雑貨が無造作に積み上げられていた。
ハンズは久しぶりだ。売場の様子も変わっていた。レジの数が圧倒的に減っていた。人員削減ということなのか。
外に出るとコスプレの女の子の握手会らしき催し、訳のわからぬ行列。ぼくにとっては異世界だ。
興味はあるが、いささか疲れた。
思い出したのは、昔から行っている珈琲屋である。頭を休めようと向かった。薄暗い店内には、木の温もりのある昔ながらの空気が漂っていた。一枚板のカウンター。その前にある珈琲カップの棚が楽しい。何人もの店員がゆったりと働いている。
会計は現金オンリーだ。
既に渋谷の街は夜になっていた。