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梅雨近ししばられ松の摩訶不思議

小山正見

 向ケ丘遊園から梶ケ谷に向かうバスに乗った。東急バスの路線で、系統番号は「向01」。ふと、路線図の中に「しばられ松」というバス停を見つけた。なぜ縛られているのか-。その奇妙な名前が頭に残っていた。
 先日、友人から「昔ばなしを語ろう会・かわさき」の朗読会に誘われた。この会は「昔ばなし大学」を全国で開講されてきた多摩区在住の口承文学者、小澤俊夫さん(世界的指揮者である故・小澤征爾さんの兄上)の活動に刺激されて生まれたという。
 その日、会場の多摩区役所生田出張所には20人近くが集まっていた。そこで朗読された話の一つが、あのしばられ松の昔話だった。
 しばられ松は昔から語り継がれてきた民話の主人公だった。この松は元々「聖(ひじり)松」と呼ばれる尊い松だった。その松が寂しくなってか、夜な夜な仲間のところに遊びに出かけるようになってしまった。すると、村に疫病がはやった。村人が気付き、松を縛って動けないようにしたら疫病が治ったという。それ以来、聖松はしばられ松と呼ばれ、子どもの病を治す守り神になったそうだ。
 しばられ松を実際に見に行くと、バス停の前の聖社の境内に残されていた。大木だが、ほとんど枯れ木に近い。しかし、雨の当たらぬように屋根が作られていた。いかに大事に保護されてきたかが分かる。
 川崎には、こんなすてきないい伝えがいくつも各地に残されている。萩坂昇さんの『かわさきのむかし話』(北野書店刊)によれば、「鼻取地蔵」(高津区)「寺を守った亀」(川崎区)「影向石と乳いちょう」(宮前区)など、タイトルからして興味深い話が多い。
 バス停の名前が縁で出会ったしばられ松。これからも子どもたちを疫病から守ってくれるに違いない。

東京新聞川崎版6/8の「小山正見のかわさき俳句フォト」です。
以下からご覧ください。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/410322