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とんかつはにいむら歌舞伎町は夏

小山正見

急に暑くなった。空が夏になっている。新宿に出た。ここにも梅雨が明けたような空気が広がっている。
昼飯に何を食べるか?
食べたいものがない。紀伊國屋書店の地下が食堂街になっている。昔からここはよく来た。茹でたてスパゲッテイの店がある。隣はうどん屋だ。何となく食べる気にならない。カレー屋も二軒ある。どうもそんな気分ではない。寿司屋や卵かけご飯の店もある。卵かけご飯が二千円以上する。
結局、通り抜けて外に出る。アカシアのロールキャベツは先日食べたばかりだ。
一瞬、冷やし中華もいいかと思ったが、ぴったりこない。
こんな時、最後に残るのがとんかつだ。脂が多く、ぼくの体にはよくないことはわかっているが、精神的には「安心感」がある。
伊勢丹の上のレストラン街にもとんかつ屋があるが、ひどく高い。新宿でよく行くのは、「とんかつ卯作」や「王ろじ」だ。「王ろじ」はカレーも人気の店だ。
迷った末、歌舞伎町にある「にいむら」に向かった。昔からあり、今なお生き残っている名店だが、ぼくは大昔に入ったきりだ。
店内は記憶していたより狭い。注文はタブレット式になっていた。
一番安いロースカツランチを注文した。肉は100グラムだ。ところが、目の前に思ったよりかなり大ぶりのとんかつが出てきた。よく見ると、その分肉が薄い。ハムかと思うほどの薄さだ。
「なんだ」
と一瞬がっかりしたが、口に運んでみたら、うまい。
それにごく細切りのキャベツが絶品だった。おかわりができるというので頼んだら、何と最初に置かれた量の数倍、お皿いっぱいの山盛りキャベツをどさっと置かれて仰天した。外国人の店員がニヤッと笑う。なんだか、一本取られたような気分だった。