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六月の葛切の味京の味

小山正見

今日6月11日は、ぼくと妻の結婚記念日である。54年前のことだ。その時、ぼくは東京都の教員の職を得てからまだ2ヶ月しか経っていなかった。結婚式は、神楽坂にあった東京都の教育会館で「祝う会」形式で行った。仲人は大学の研究室の指導教官であった城丸章夫先生に頼んだ。先生は、ぼくの両親に「邦子さんは正見さんには過ぎた人です」と述べたそうだ。
僕たちの結婚生活は、結婚式の日のある失敗から出発している。式と披露宴が終わり、その日宿泊する予定の東銀座東急ホテルに着いて初めて気づいた。宿泊のクーポンや切符がなかったのだ。慌てて足立区のアパートまでタクシーで取りに帰った。
新婚旅行の行き先は京都だった。修学旅行で行ったことのあることが安心に感じられたのかもしれない。
京都では、千切家に二泊している。当時の僕たちの懐具合から言えば、最高級の旅館だったはずだが、今調べてみるとその名はどこにも見つからない。
まず、向かったのは詩仙堂だった。これも高校の修学旅行の思い出からだったからだろう。妻は、しきりにスカートの丈の短さを気にしていた。京都の植物園に行ったことは覚えている。なぜ、そんなところに行ったのだろう。謎だ。
何を食べたか、これも覚えていない。夜は旅館でご馳走を食べたに違いないが、頭の片隅にも残っていない。
唯一覚えているのは、葛切りを食べたことだ。祇園の近くだった。半透明のつるりとした冷たい舌触りが妙に残っている。「鍵善」。この店の名前も印象的だった。
約10年前、すでに病気を発症していた妻を連れて、京都に行った。
そして、鍵善に行き、当時と同じ器に入った当時と同じ味の葛切りを食べた。
鍵善の葛切りの味は、ぼくにとっては新婚の味であり、50年を超える結婚生活の味なのかもしれない。