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冬うららかつてありける貸本屋

小山正見

元住吉の裏通り。
この場所に貸本屋があった。いつなくなったかは記憶にない。
小学生から高校生にかけて、ぼくはここの古本屋に通い続けた。
1日10円、延長料金は1日5円だった。
印象に残っているのは、まず白土三平だ。それがカムイ伝だったかどうかは定かではないが、白土三平だったことは確かだ。次はさいとうたかおである。これもゴルゴ13だったかどうか。
人間の記憶というものは、相当に不確かである。
ハードボイルドの劇画は刺激的だった、ぼくはこれらの本を学校に持って行ったらしい。
母は担任の先生に呼び出され、
「小山君が変な本を学校に持ってきて困る」
と言われたようだ。
その辺りの記憶はぼくにはない。
「学校にはもっていかないでね」
ぐらいのことは言われたかもしれないが、読む本を制限された記憶は一切ない。手塚治虫もサザエさんも貸本で読んだ。
あとは講談本だ。山中鹿之介だったり宮本武蔵だったり。戦国の武将ものはほとんど読んだ。あとは軍記だ。『敵中横断三百里』を読んだのもこの頃だ。
大きくなって、スケベな雑誌も借りた覚えがあるがこれは秘密。(笑)
もちろん貸本ばかり読んでいた訳ではない。
岩波の少年少女文庫や講談社の世界名作全集などをよく読んだ。
ドリトル先生シリーズも読んだが、ハマったのは海洋物である。
『海底二万里』や『勇敢な船長』、『海に育つ』などだ。将来は船乗りになると心に決めていた。それが最後にはアーサーランサムの『ツバメ号とアマゾン号』に落ち着いた。この本は何度読んだかしれない。
本物の海洋が消え、擬似のお遊びになったということだ。
いつの間にか海への憧れは消えていた。
一生で一番たくさんの本を読んだ時代だったかもしれない。