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曝書して父の書きたるラブレター ②

小山正見

父・小山正孝は生前、丸山薫賞をいただいた『十二月感泣集』など、8冊の詩集を刊行している。父の死後、書斎からノートに書かれた膨大な数のソネットが見つかった。『逃げ水』や『愛しあふ男女』と重なる部分があるとはいえ、なぜこれらのソネットを発表しなかったのか。今となっては不思議である。坂口昌明さんがこれらの詩篇を整理し『未完ソネット集』を編んでくださった。
これらの詩篇には、正孝のナマの感情が溢れており、そのことが逆に躊躇を生んだのではないかとも思う。
母へのラブレターの中にも詩の草稿らしきものが含まれていた。
今回は、それを紹介したい。

ささやき

(しづかだね 誰も来ない 鳴いているのはつぐみだらうか)
二人の上に栗の葉はかるくそよぎあひ
日が白くもれてふりかかつてゐた
お前は僕の腕の中にもたれかかつてためいきをついてゐた
(このまま 夜になつてしまふと いい
まはりが暗くなつて
けものたちのやうに じいつと身を寄せてゐる二人のたましひが
星がいつぱい輝くのを
もつとつめたい風が吹くのを
疑いもなく信じてゐたら!)
その時だ
羊のやうな白い雲がー会話するのをさまたげるやうに
つめたい霧で二人をつつみはじめた
ぼくはお前を抱きしめた
(いやだ いやだ やつぱり お前は明るい日の中で
さうして 霧がすぎさつた時    ほほ笑んでおいで)
僕は見た
お前のひとみのちひさい黒い輝きを
お前の肩にてんたう虫を

日付は不明だが、戦前、父が母と結婚する前に書いて渡した詩であることは確かなようだ。