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秋の雨滝沢修の蘇る

小山正見

被災した熊本は猛暑が続いているというのに、東京は例年になく雨が多い。それに気温が低い。にもかかわらず、カフェや電車の中は冷房ががんがん効いている。居場所がないので、早々に引き上げることにした。
帰る途中新宿を通った。紀伊國屋書店に演劇のチラシが置いてあった。何気なく手に取るとこまつ座の公演だ。こまつ座の公演には何度足を運んだことか。ご存じのようにこまつ座は井上ひさしの作品を上演している。『兄おとうと』の演出は鵜山仁。今も第一線で活躍しているのだ。懐かしい名前だ。
その隣にもう一枚チラシがあった。樫山文枝の名前がある。
「ん?」
「やはり、そうだ!」
隅に劇団民藝公演とある。
「民藝、まだあるんだ!」
ぼくが本格的な芝居に初めて出会ったのは、劇団民藝の舞台だった、
高校生の時だったと思う。父に連れられて観た芝居は、島崎藤村の『夜明け前』だった。
この芝居は、初演が昭和9年である。その30年後の昭和39年に再演されている。ぼくの観たのはそれだ。
舞台から遠い上の席から見下ろした記憶がある。どうやら場所は大手町のよみうりホールだったらしい。
主役の青山半蔵を演じたのは、滝沢修である。重厚な舞台装置とともに彼の独特な声の響きがいまだに耳の奥に残っている。
それからぼくは、芝居のファンになった。はじめのうちは、民藝の芝居をよく観た。演目の多くは忘れたが、『オットーと呼ばれる日本人』の滝沢修も観た記憶がある。
あの頃のぼくにとって芝居といえば民藝であり、滝沢修だったような気がする。
秋の雨の中、そんな昔のことを思い出した。
若い頃のように、また芝居に足を運びたい気がする。