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芭蕉から始まる新春講座かな

小山正見

講師は渡邊尚代先生である。
彼女は欧米文学の専門家で、神保町にある児童書専門店のブックハウスカフェを会場に、長年講座を続けてこられた。

昨年あたりから、尚代先生は芭蕉の『おくのほそ道』に相当に興味を持たれたようだ。
その尚代先生は、行動の人である。早速、日光の裏見の滝に出かけ、平泉にも立石寺にも足を伸ばされた。足で現地を見なければ真髄はわからない、というのが尚代先生の考え方である。

そして、数十ページにわたる詳細なテキストが用意されての講座であった。
芭蕉が活躍した時代は、シェークスピアやセルバンテスと近いという。欧米文学を知り尽くした尚代先生ならではの視点である。

ぼくは、しばらく『おくのほそ道』から遠ざかっていたが、尚代先生の作られた膨大な資料を前にして、
たとえば
「かさねとは八重撫子の名なるべし」
「塚も動け我が泣く声は秋の風」
といった芭蕉の句に、久しぶりに浸ることができた。

すると突然、尚代先生から「折角来たのだから、句会をやってほしい」と頼まれた。
そう言われたら、やるしかない。少し考えて、お正月をテーマに、参加者の皆さんに即席で俳句を作ってもらうことにした。

例題として、
「我が家では ◯◯◯◯ お正月」
を挙げ、中七を考えればすぐできますよ、と示した。

たとえば、
「我が家でてんやわんやのお正月」
よりも、
「孫の来ててんやわんやの正月」
とすると、さらによくなりますね、と話した。

初詣もテーマに加えると、五分ほどで、みんなの句が揃った。
どんな俳句ができあがったか、挙げてみる。

お正月三代揃う墓の前
我が家では一人お節のお正月
山の神私も走るお正月
お雑煮にイクラを入れるお正月
黒豆の甘さが続くお正月
風の音もきのうと違うお正月
犬抱え自転車漕いで初詣

どの句も自然で、生活感に溢れている。

尚代先生の講座は、正に「今年初心に沁みる尚代節」であった。