【大好評】「咲満ちて小山正見の俳句フォト カルタ」販売中!

頂きぬ初物となるさくらんぼ

小山正見

小ぶりだが、輝くさくらんぼをいつもお世話になっているOさんに頂いた。
佐藤錦だ。さくらんぼには、紅さやかや高砂など多くの品種があるが、佐藤錦は、その中でも高級品だ。6月の中旬が収穫時期なのでこの時期のさくらんぼは、更に高値だろう。ありがたく頂戴した。
ぼくにとってさくらんぼは、特別の意味がある。
句集『大花野』に

「あなたのは」とばかり訊く妻さくらんぼ   正見

の句があるからだ。この句を最初に取り上げてくれたのは、俳人の長谷川櫂氏である。読売新聞に毎日連載されている「四季」には、次のように記されている。
「十年前、妻がアルツハイマー型の認知症と判明。外に出れば道に迷う。家の中でも迷子になる。本を逆さまに読もうとし、服の着方がわからなくなる。それでも「あなたのはあるの?」と夫を気遣ってくれる。句集『大花野』より」
次にこの句を取り上げてくれたのは、朝日新聞の「俳句時評」。書いて下さったのは、坂西敦子氏だった。家族俳句の現在地と題して、句集『大花野』を取り上げ、挙句に触れている。
「あなたのは」で、何もかも二人で分かち合ってきた道のりを示す一方で「ばかり訊く」のもどかしさ。状況を知らずともすれ違いがあることを感じさせ、一対で実るさくらんぼが本来持つ楽しげな姿とのアンバランスが胸に迫ってくる。
この「さくらんぼ」の句は、NHKEテレの番組「歳時記食堂」でも取り上げられた。この番組は、NHK俳句の番外編で、第5日曜日がある時だけ放映された。2022年の7月だったと思う。
齋藤孝と星野高士が確か出演していた。芥川龍之介の句の次にぼくの「さくらんぼ」の句が紹介された。我が家までテレビカメラが入り、ぼくが謎解きのようなコメントを述べた。テレビにぼくの顔が大写しになった。少し恥ずかしかった。
句集『大花野』と同様朔出版から『句集 つはぶき』を出版された堤郁子氏が、この句を気に入ってくださり、さくらんぼの絵を描いて下さった。
この絵は、額に入れて今も我が家を彩ってくれている。