俳句フォトエッセイ2026.06.18駅前の巨象の如きビル薄暑小山正見午前中の仕事が終わり、グダグタしていたら午後の3時を過ぎた。家の中にいても仕方ないと思い、散歩に出かけた。元住吉の駅を過ぎ、綱島街道を渡った。「この辺りに喫茶店があったはずだ」しかし、その喫茶店はシャッターが降りていた。駅まで戻ってきて綱島の古民家喫茶を思い出した。念のため、スマホで調べたら、休みだと分かった。代わりに自由が丘に出かけた。気になっていた小洒落たカフェに入った。ホットケーキを頼もうかと思ったが、あまりにデコレーションがしつこそうなので、諦めてコーヒーだけ注文した。隣では、女の子が二人スパゲッティをシェアして食べている。子連れのママもいる。向かいには、サラリーマンらしき数人が会議の様相。しかし、「寒い!」冷房が効きすぎている。これからの季節は、これが大敵だ。文句を言うわけにもいかない。ついに寒さに耐えきれなくなって、外に出る。かつての九品仏川が埋め立てられ今は緑道になっている。そこにベンチが並べられている。「最初からここに来ればよかった」今の季節、一番気持ちがいいのは木陰だ。折角だから、自由が丘を久しぶりに歩いてみようと思った。父が好きだったカフェ・ラ・ミラの跡には新しいカフェがオープンしている。「そうだ、あそこに行ってみよう」自由が丘の「ヴェニス」に向かう。父正孝が好きだった場所だ。正式名称を「ラ・ビィータ自由が丘」という。できたのは、1990年代である。正孝は、ここを題材にした愉快な詩を残している。一度紹介したが、再掲しておく。 人に 小山正孝またここに来てゐますそれぞれが色変りの煉瓦八棟の建築に囲まれた一画ゴンドラ一艘を浮べた人工の川があるベネチア風の橋もかかつてゐる「僕はシェイクスピアの世界ではなく紅楼夢の世界として空想をひろげたい」「どうしてでせう」「一棟ごとに少女を住まはせてみようといふのかな」あなたは眉をひそめてかすかに不快を示したあなたをその一人にしたいなどとは言はなかったのにいまも 誰をそこへ住まはせようか過去何十年かのあひだにめぐり逢つた女の人を作者 曹雪芹になつたつもりであれこれと思ひ出しては心のままに出し入れしてゐるのです一瞬のあなたの表情の変化もまんざらではなかつたのでどうしようかと迷つてゐるのです新建材の煉瓦で建てられた八棟に囲まれた一画また僕はここに来てゐるのです残念なことが二つあった。一つは、置いてあった椅子が撤去されていたことだ。そして、もう一つは、「写真撮影禁止」の張り紙があったことだ。ぼくはここで何枚もの俳句フォトをものにした。「もうここで俳句フォトの写真を撮ることはできないのか」帰りに気がついた。自由が丘の駅前の再開発のビルが姿を見せているのだ。
午前中の仕事が終わり、グダグタしていたら午後の3時を過ぎた。家の中にいても仕方ないと思い、散歩に出かけた。元住吉の駅を過ぎ、綱島街道を渡った。
「この辺りに喫茶店があったはずだ」
しかし、その喫茶店はシャッターが降りていた。
駅まで戻ってきて綱島の古民家喫茶を思い出した。念のため、スマホで調べたら、休みだと分かった。
代わりに自由が丘に出かけた。気になっていた小洒落たカフェに入った。ホットケーキを頼もうかと思ったが、あまりにデコレーションがしつこそうなので、諦めてコーヒーだけ注文した。
隣では、女の子が二人スパゲッティをシェアして食べている。子連れのママもいる。向かいには、サラリーマンらしき数人が会議の様相。
しかし、「寒い!」冷房が効きすぎている。これからの季節は、これが大敵だ。文句を言うわけにもいかない。
ついに寒さに耐えきれなくなって、外に出る。かつての九品仏川が埋め立てられ今は緑道になっている。そこにベンチが並べられている。
「最初からここに来ればよかった」
今の季節、一番気持ちがいいのは木陰だ。
折角だから、自由が丘を久しぶりに歩いてみようと思った。
父が好きだったカフェ・ラ・ミラの跡には新しいカフェがオープンしている。
「そうだ、あそこに行ってみよう」
自由が丘の「ヴェニス」に向かう。父正孝が好きだった場所だ。正式名称を「ラ・ビィータ自由が丘」という。できたのは、1990年代である。正孝は、ここを題材にした愉快な詩を残している。
一度紹介したが、再掲しておく。
人に 小山正孝
またここに来てゐます
それぞれが色変りの煉瓦
八棟の建築に囲まれた一画
ゴンドラ一艘を浮べた人工の川がある
ベネチア風の橋もかかつてゐる
「僕はシェイクスピアの世界ではなく
紅楼夢の世界として空想をひろげたい」
「どうしてでせう」
「一棟ごとに少女を住まはせてみようといふのかな」
あなたは眉をひそめてかすかに不快を示した
あなたをその一人にしたいなどとは言はなかったのに
いまも 誰をそこへ住まはせようか
過去何十年かのあひだにめぐり逢つた女の人を
作者 曹雪芹になつたつもりで
あれこれと思ひ出しては心のままに出し入れしてゐるのです
一瞬のあなたの表情の変化も
まんざらではなかつたので
どうしようかと迷つてゐるのです
新建材の煉瓦で建てられた八棟に囲まれた一画
また僕はここに来てゐるのです
残念なことが二つあった。
一つは、置いてあった椅子が撤去されていたことだ。そして、もう一つは、「写真撮影禁止」の張り紙があったことだ。ぼくはここで何枚もの俳句フォトをものにした。
「もうここで俳句フォトの写真を撮ることはできないのか」
帰りに気がついた。自由が丘の駅前の再開発のビルが姿を見せているのだ。