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それなりに田園調布の祭かな

小山正見

「やるじゃん」
拍子木の音が聞こえ、神輿が賑やかに駅前に入ってきた。
下町の祭には遠く及ばないにしても、この神輿、なかなか勇壮である。どうやら多摩川浅間神社の祭らしい。
ここは田園調布の西口だが、東口では、お祭りに合わせたフェスティバルが開催されていた。子供たちや親子連れが店の間を回っている。もちろん、定番の焼きそばにビールもあれば、金魚すくいもある。中には、うちわに好きな絵を描くブースもあった。イタリアンの店のピザが山盛りになって並べられているのが田園調布らしい。
ぼくは、子供の頃9年間田園調布に通った。ぼんやりした子供だったので、鮮明な思い出が数多くあるわけではない。
大の給食嫌いだったぼくは給食のない水曜日が待ち遠しかった。昼のチャイムが鳴ると、学校の壁を乗り越えて駅近くのパン屋に走った。コッペパンにコロッケを挟んでもらったり、ピーナッツバターを塗ってもらうのだ。今の時代なら絶対に許されなかっただろう。
書き初めの宿題を提出した時、先生に「小山君の字は、書き初めなんて絶対やりたくないって感じの文字だね」と言われた。
友達の家に遊びに行き、その豪華さに驚いた。紅茶やケーキを出され庭で野球ごっこをした。
子供心に「うちには友達を連れてくることはできないな」と思った。
今、ぼくは田園調布が好きだ。豪邸が立ち並ぶその地域に住むことは叶わないが、それらの家々の瀟酒な姿を見ながら散歩を楽しむことにお金はいらない。いくばくかのコーヒー代を払えば駅前のおしゃれなカフェで何時間でも過ごすことができる。
あと何年生きられるかわからないが、体が動くうちはぼくは田園調布に通い続けるだろう。