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タクシーにふんぞり返り秋うらら

小山正見

武蔵野線の三郷駅前である。ぼくは、毎月一度ここからタクシーに乗る。ふれあい早稲田診療所に向かうためである。ここで、認知症デイサービスの利用者さんの俳句教室を行なっているからだ。一番緊張する時間だが、みんなと一緒に笑いまくる。終わると楽しい。
この日は、
秋田では熊鍋を食う秋日和
この日だけ孫が支払う敬老日
などの句が生まれた。
秋の夜はすぐ寝ちゃう巨人負けたから
の句にはみんな爆笑!
タクシーに乗っている時間はわずかなものだ。料金は700円だが、タクシーを利用すると自分がお大尽になった気分になる。車をやめたのは15年前だ。
車を所有していると経費がかかる。車代に加えて、保険料や車検、駐車場代も必要になる。
だったら、「その分タクシーに乗れば良い」。そうすれば、年に20万円も30万円もタクシーに乗れるはずだ。
しかし、現実になるとケチケチして、ほとんどタクシーに乗らずに過ごしてきた。
ぼくが最初に車に触れたのは、妻が運転していたダイハツの軽だ。時速60キロにもなると、マフラーから黒い煙が輪のように吹き出した。
ぼくはその車で清瀬の結核療養所と自宅を往復した。
次の車は、ホンダのシビックだった。濃い緑色の車体が美しかった。当時で60万円くらいだった気がする。
新車が到着して、その日に釘に車体を擦ってしまった。その時妻に責められた記憶はない。今になって妻の寛容さに気づく。
次の車はトヨタのカローラだ。父親が運転をやめるというので譲り受けた。更にスズキの軽、シビックシャトルと続く。
シビックシャトルはバンのように後部座席が倒れるので、子連れの旅行に最適だった。最後は2台続けてトヨタのカリーナe x ivだった。車高が低く、デザインが大好きだった。ラジエターから水漏れをしたが牛乳パックに水を用意し足しながら走った。
最後の運転は、既に認知症を発症していた妻を連れて、レンタカーでしまなみ海道を走ったことだ。2015年だった。瀬戸内海に浮かぶ島々が今でも目に浮かぶ。
それからは一切運転していない。
これからは、もう少しタクシーに乗ってふんぞり返ってもいいのかもしれない。