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何かしら文化の香り処暑の石

小山正見

23日は二十四節気では「処暑」である。「処暑」とはそろそろ暑さもおさまる頃という意味である。
角川の歳時記には

水平にながれて海へ処暑の雲 柿沼茂

という例句が一つだけ載っている。
この句からは秋の涼しさが感じられるが、今年はそんな風にいかない。暑さが空気の中に居座り、満ち満ちている。
処暑の石組も写真では涼しげだが、実際は暑さ染み出しているのかもしれない。
ここは地下鉄神保町の駅だ。岩波ビルの出口の石組なのである。
このビルの最上階に岩波ホールがあった。
色々な名画が掛かったが、一番印象深かったのは、「モリエール」である。
モリエールは17世紀のフランスを代表する劇作家、俳優である。このモリエールの生涯を描いた映画で上映時間は4時間だった。途中に休憩が入ったことを覚えている。大ヒット中の「国宝」より尺が長い超大作だった。
調べてみるとこの映画の制作は1978年。日本での公開は80年代に入ってからとのことだ。
映画を見終わって驚いたのはこの映画の字幕翻訳者が山崎剛太郎だったことだ。山崎剛太郎はフランス映画の字幕翻訳の第一人者で『一秒四文字の決断    セリフからのぞくフランス映画』の著作もある。
この山崎剛太郎は、実は父の親友で幼い時から「山崎のおじちゃん」と呼び可愛がってもらった、ぼくにとっては大切な人だ。
小学生の時、東宝東和の試写室でみせてもらった「沈黙の世界」と「赤い風船」の美しい画像は未だ頭の中に残っている。
「モリエール」を観た当時、ぼくは休みになると神保町の本屋街に出かけていた。
学資会館の駐車場か裏通りに駐車し、本屋を歩き回った。書泉グランデ、三省堂、東京堂が多かった。グランデの横の地下の喫茶店伯剌西爾(ぶらじる)の薄暗い店の中で本を読んで過ごした。ぼくにとって、文化の香りのする時代だった。