俳句フォトエッセイ2026.09.17曝書して父の書きたるラブレター小山正見母が父からのラブレターをとっていたことは知っていた。小山正孝研究という立場で言えば、『感泣亭秋報』に取り上げるべきテーマだった。資料として大きな価値があることは確かだ。しかし、あまりにも細かな字で書かれているために読み取れなかった。ぼく自身が白内障だったせいもある。誰かに読んでもらえばよかったのだが、その時は気が付かなかった。今朝、久しぶりに取り出して読んでみたら読める。白内障の手術を済ませたということもあるが、朝の早い時間だとまだ目が疲れていないからだろう。そこで、少しずつできる範囲で書き起こすことに決めた。順不同だが、最初は結婚6年目に書かれた手紙だ。この時、ぼくはすでに生まれており、幼いぼくのことが書かれている。一九五○年四月二十日にわたしたちの間に出来た子供が ものを言うやうになつた緑の木陰でこつちを向いて笑ふやうになつたおずおずとふみ入つた二人の道も もう六年になれば大同の険難の見当もついたしかし その間に発見したものは わたしたちのお互いが昔とちがつて 夢ばかりに生きていけないといふ事 現実が大事その中に生き甲斐を見つけないといけないといふ結論あの子が一日一日と言葉をおぼえていくやうに親達も何ものかを身につけていきたいものだあの子のやうに すべてがおどろきであり 価値でありたいあの子のやうに わたしたちも可愛くありたい新しいものを大人にお互いになつて あと何十年かふみこえて行きませうねばり強さとたゆみない歩みで・…・…・これは詩ではありません。けれども なんだか書きたくなつたので一寸書いてみました。今日はお前のたん生日。そんな事が、しめつぽい雨、ガラス窓から見えるネオンの遠い光。会社の事務室の一隅でひまをみつけたので・…・…・電車の音がきこえる。お前は、いまごろ、一人で さびしく自分のたん生日をむかへてゐるのか思ふと、かはいさうにな。ー でも僕の、この、一片のゆとりのない言葉で、ゆるしてもらへると思つてゐる。ーねばり強くやりませう。僕は、お前の事を考へて、また会議に出よう。これから。 正孝 常子へ。「現実が大事」というのだから、この時期に何かがあったのかもしれない。ぼくは、親の庇護の下で好きなことをし、わがまま放題で育ったが、人間に対する信頼を失ったことは一度もない。これほどまでに可愛がられて育ったからかもしれない。
母が父からのラブレターをとっていたことは知っていた。小山正孝研究という立場で言えば、『感泣亭秋報』に取り上げるべきテーマだった。資料として大きな価値があることは確かだ。
しかし、あまりにも細かな字で書かれているために読み取れなかった。ぼく自身が白内障だったせいもある。誰かに読んでもらえばよかったのだが、その時は気が付かなかった。
今朝、久しぶりに取り出して読んでみたら読める。白内障の手術を済ませたということもあるが、朝の早い時間だとまだ目が疲れていないからだろう。
そこで、少しずつできる範囲で書き起こすことに決めた。
順不同だが、最初は結婚6年目に書かれた手紙だ。この時、ぼくはすでに生まれており、幼いぼくのことが書かれている。
一九五○年四月二十日に
わたしたちの間に出来た子供が ものを言うやうになつた
緑の木陰でこつちを向いて笑ふやうになつた
おずおずとふみ入つた二人の道も もう六年になれば
大同の険難の見当もついた
しかし その間に発見したものは わたしたちのお互いが
昔とちがつて 夢ばかりに生きていけないといふ事 現実が大事
その中に生き甲斐を見つけないといけないといふ結論
あの子が一日一日と言葉をおぼえていくやうに
親達も何ものかを身につけていきたいものだ
あの子のやうに すべてがおどろきであり 価値でありたい
あの子のやうに わたしたちも
可愛くありたい
新しいものを大人にお互いになつて あと何十年か
ふみこえて行きませう
ねばり強さとたゆみない歩みで・…・…・
これは詩ではありません。けれども なんだか書きたくなつたので一寸書いてみました。
今日はお前のたん生日。そんな事が、しめつぽい雨、ガラス窓から見えるネオンの遠い光。
会社の事務室の一隅でひまをみつけたので・…・…・
電車の音がきこえる。お前は、いまごろ、一人で さびしく自分のたん生日をむかへてゐるのか思ふと、かはいさうにな。ー でも僕の、この、一片のゆとりのない言葉で、ゆるしてもらへると思つてゐる。ーねばり強くやりませう。
僕は、お前の事を考へて、また会議に出よう。これから。
正孝
常子へ。
「現実が大事」というのだから、この時期に何かがあったのかもしれない。
ぼくは、親の庇護の下で好きなことをし、わがまま放題で育ったが、人間に対する信頼を失ったことは一度もない。これほどまでに可愛がられて育ったからかもしれない。