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気に入りの本を持ち寄る梅雨の夜

小山正見

もう一年以上前になるだろうか。イケメンの青年が感泣亭を訪ねてきた。
「読書会をしたいのですが、会場を貸してくれませんか」
今時、奇特な青年がいるものだ。それから毎月一回土曜日の夜に「読書会」が始まった。
ルールは簡単である。参加者が自分の推薦する本を持ち寄り、それについて代わりばんこに語る。スルーして終ることもあるし、議論になることもある。
ぼくには、このやり方は新鮮だった。読書は一人でするものと長い間思ってきたからだ。時に人に読んだ本を薦めることあったが、こうして皆で持ち寄ってその話をするという習慣はなかった。
梅雨に入ったこの夜、急に参加できない人もいていつもより少人数だった。しかし、少人数だと深く話ができる。
いくつかの衝撃があった。
一つは、島尾敏雄の『死の棘』が取りあげられたことだ。
『死の棘』は島尾敏雄の私小説で夫の不倫を発端とした妻ミホの精神の崩壊やその中での夫婦関係がとりあげられた鬼気迫る作品である。
トルストイの『アンナ・カレーニナ』の書き出しに「すべての幸せな家庭は似ている。不幸な家庭は、それぞれの異なる理由で不幸である」という言葉がある。
幸せは、小説にならないが、不幸は不幸なほど人に読まれるのだ。
「人の不幸は蜜の味」という言葉すらある。人間は残酷だ。
『Y🟰男の悲劇』という本も取り上げられた。
少子化とも関係するが、Y染色体が刻一刻と失われている事実を取り上げ、そこから性の問題をさまざまに取り上げている本である。人間の絶滅は必然なのかもしれないと絶望的な気持ちにもなってしまう。
ぼくが取り上げたのは、末並俊司の『snug on lived』という小冊子。取り上げているのは、「特殊清掃」という現場。特殊清掃というのは、孤独死や変死、ゴミ屋敷などの専門的で高度な清掃などのことを指す。このような世界があるのだ。作者の末並俊司は、小学館ノンフィクション大賞を得た『マイホーム山谷』で圧倒的な取材力を見せたノンフィクション作家である。
2時間弱の読書会が終わると毎回、世の中が深く広いことを再認識させられる。
秋だけでなく、梅雨の夜も読書に適している。