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立冬のトーテムポールの顔に皺

小山正見

神保町の有名な喫茶店「さぼうる」である。今や観光地化の様相も感じられるが、若いカップルで賑わっている。
開店したのは1955年というから70年前だ。その当時からこのトーテムポールがあったかどうかは定かではないが、さぼうるの象徴的な存在である。
若い時は、休日となると神保町に出かけ、本屋を漁り喫茶店で本を読むのが日課のようになっていた。
本を買うのは「書泉グランデ」と決まっていた。一つは教育関係図書が充実していたことだ。雑誌も揃っていた。
もう一つの理由は「栞」である。毎月変わった形の栞をおまけにくれたからだ。ブックカバーにもセンスが感じられた。
ここで買った本の一冊に向山洋一氏の『跳び箱は誰でも跳ばせられる』がある。彼の最初の著作でこの後、向山は教育法則化運動の旗手として一世を風靡することとなる。ぼくは高校時代に東京学芸大学に在籍していた向山と一度会っていることを思い出した。この向山の一連の著作にぼくは大きな影響を受けた。もっとも大きいのは「研究材料は目の前にある」という考え方についてだった。
書泉グランデから道を隔てたところにコーヒーの伯剌西爾がある。地下にある薄暗い店だ。よくこんな薄暗い店の中で本を読めたものだと我ながら感心する。
古瀬戸珈琲にもよく行った。足場を掛けて壁画を描く画家さんのそばで、文庫本のページを巡っていたこともある。学士会館の喫茶室や図書室も利用した。別に身分証を求められるわけでもなく、いつも空いていた。
最近はこれらの店はほとんど使わない。長居することに気が引けるからだ。代わりにセルフサービスの安いコーヒー屋を使う。昨日もすずらん通りのサンマルクカフェで3時間を過ごしてしまった。