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良き人と出逢ひますやう夏詣

小山正見

晴れが続き、梅雨が明けるものと思っていたが、梅雨明け宣言はなかった。
が、雨は降っていないので出かけた。
80年近く東京で暮らしているのに、東急世田谷線に乗るのは初めてだ。
世田谷線は三軒茶屋と下高井戸を結ぶ路面電車だ。2両連結で、雰囲気は江ノ電に似ている。
松陰神社前で降りたが、出口にSuicaのタッチパネルがない。辺りを見回しても見当たらない。しばらくして、都バスと同じように全線同一料金なのだということに気がついた。
何だか、旅先にでも来た気分だ。
「東京は広い!」
松陰神社までの商店街を歩く。最近は、どこでもチェーン店ばかりが目に付くが、ここは違う。地元が残っている。
本屋もある。現代風の珈琲屋も食堂も並んでいる。
地元の眼鏡屋があり、呉服屋も残っている。注文ワイシャツの看板があったのには仰天した。
松陰神社のことは、お花の先生Uさんに教えてもらったばかりだ。
「神社の前の旭屋パーラーが素敵よ」
と名刺までいただいた。その名刺があまりにお洒落だったので、行ってみたくなったのだ。
旭屋パーラーはすぐわかった。確かに名刺の絵のようにお洒落な店だ。
2階の窓際に座り、850円のモーニングを注文した。
生まれて初めて食べた「あんこトースト」のほのかな甘さが舌に残った。
目の前を犬を連れたじいちゃんが通り過ぎる。自転車に乗ったおばちゃん、スーツケースを転がす若い女性。
松陰神社の鳥居は黒く佇んでいる。神社の森が鬱蒼としている。
茅の輪はすでに取り去られていたが、代わりに風鈴の棚が静かに揺れている。
風鈴の舌に書かれる願いは様々だ。
「健康に過ごせますように」
「良き人と出会いますように」
に始まり、「愛子さまが天皇陛下になられますように」というものまであった。
この日、吉田松陰の本名が吉田寅次郎藤原矩方であることも初めて知った。