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街並みの古き記憶や蜃楼

小山正見

江東区の枝川から豊洲へ向かう道である。
ぼくは川崎に移り住む以前、つまり14年前までこの近くのマンションに暮らしていた。地下鉄の豊洲駅からこの道をよく歩いた。まだ工場が残る暗い道だった。
ぼくの歴史を遡るとこの道を初めて通ったのは45年前である。
第二辰巳小学校への転勤が決まり、門前仲町からバスに乗った。当時はマンションなど影も形もなかった。
橋を越えた左側には、日新製糖の工場があった。右手にあったのは石川島播磨の工場群だった。夜になると裸電球の街灯だけがポツンと灯っていた。
工場群を過ぎると忽然と現れたのが第二辰巳小学校のある都営団地だった。この道をぼくは10年通った。
一番印象的だったのは、雪の夜の記憶である。雪が降るとバスは動かず、この辺りは、陸の孤島になった。一番近い木場駅まで暗い道を40分も手を悴ませながら歩いたことは、昨日のように覚えている。
今は地下鉄有楽町線が通り、かつての「辺境」の地は、駅前の一等地へと姿を変えた。最後まで残っていた東京製鉄もなくなり、高層マンションが林立している。
マンションの林立する道を眺めていると、目の奥に昔の工場群が浮かび上がってきた。