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廃屋を喰ひ始めたり青き蔦

小山正見

散歩の途中である。改めて、しげしげと眺めてしまった。まだ古い家ではない。意匠をこらし、お洒落な一軒家である。誰も住んでいないことは、明らかだ。白く塗られた家を青蔦がぬめぬめと這い上がっていく。飲み込まれてしまうのは、時間も問題であるかのようにも感じられる。
廃墟ツアーというのが、あるそうだが、ぼくが見た無惨な廃墟の一つは、長崎の軍艦島だ。
軍艦島の名称は、外観が戦艦「土佐」に似ているところからついた。
20世紀前半は質の良い石炭が取れることから大いに採掘が進んだ。「端島炭鉱」と呼ばれた。高層の住宅が作られ、1960年頃には、5000人が住んだと言われる。
それが、エネルギー政策の転換で廃坑になった。1974年である。それから半世紀しか経っていない。たった50年で、軍艦島は見事なまでの廃墟である。無惨極まりない。
観光地の廃墟になった旅館も無惨だ。廃墟のまま残されていると、旅の感慨も吹き飛んでしまう。
ぼくの住んでいる川崎市の元住吉はそこそこの住宅地であるが、ここにも過疎の波は迫っていきているのだろう。廃墟にこれからなりそうな空き家がそこそこ見られる。
ぼくの生まれた1948年には、200万人を超える子供が生まれた。昨年の出生数は、70万人を切ったらしい。三分の一だ。この流れを止めることはもはや不可能に近い。
出産費用をタダにするぐらいでは足りないだろう。一切の子育て費用を無料にすることに加えて、一人当たり1000万円の報奨金を出してもどうかというところだろう。
日本の人口は、明治時代の初めは3300万人。戦後すぐの人口は、7200万人だった。
現在の人口予測では、2070年の日本の人口は、8700万人というから数の上だけでは、元に戻っただけだが、人口構成などを考えれば、とんでもない事態が起こるのは間違いない。
それこそ廃墟だらけの世界になりそうだ。観光地だけでなく、住宅地も高層ビルも廃墟。
子育て策も必要だが、小さくなる時代の幸せの設計図を誰か書いてくれないか。