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秋陰に絡めとられし日本丸

小山正見

桜木町が面白い。昔は東横線の終点が桜木町だった。今、東横線はみなとみらい線と繋がり、桜木町にはJRの駅が残る。
桜木町の駅前からは、コスモワールドの巨大な観覧車が見え、ヨコハマ・エアキャビンと名付けられたゴンドラが赤煉瓦倉庫の方向に伸びている。
水辺に浮いたレストランもある。
この水辺に横浜を象徴するものが二つある。一つは石造りのドックだ。かつてはこのドックを使って船の修理をした。現在はドックヤードガーデンになっている。
もう一つは帆船日本丸である。昭和5年に完成したこの帆船は練習船として使われ、1万5000人の船乗りを育てたと言われる。
船体は、帆柱から下がる無数のロープに絡めとられているかのように見える。秋曇りの暗い空に、仕事を終えた日本丸が静かに横たわっている。
その帆柱を見上げると、しみじみとした親近感が湧いてくる。
小学生の時のぼくは船乗りに憧れる少年だったからだ。
本による影響である。
ぼくの愛読書は、次の3冊だった。1冊は『ゆうかんな船長』である。『ジャングルブック』の著者キップリングの書いた海洋小説で海に落ちた少年が漁船に助けられ、成長していく物語である。
2冊目は『海に育つ』である。リチャード・アームストロングの作品で、やはり少年が船乗りとして育っていく物語だ。
これらは本格的な海洋小説だが、3冊目は、アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』だ。海賊を気取った少女や少年たちが湖で一夏を過ごす冒険物語だ。
ぼくの中で海での冒険は湖での擬似的な冒険に変わり、中学生になる頃にはいつしか消えていた。わずか1時間の航海で酔ってしまうぼくには元々船乗りなど無理な話だ。憧れの残火だけが体の何処かに今なお燻っており、日本丸への郷愁を掻き立てているのかもしれない。

この句の季語秋

秋陰しゅういん

「秋曇」の言い換えの季語です(傍題)

秋曇:秋の曇り空。秋晴の合間に、どんよりと曇る日。