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宵闇の路地を曲れば湯の匂ひ

小山正見

【銭湯紀行】22
入谷 白水湯

入谷と言えば、まず頭に浮かぶのは「恐れ入谷の鬼子母神」というユーモラスな言葉だ。鬼子母神は安産や子育ての神様だ。雑司ヶ谷にも鬼子母神がある。ぼくはその境内での赤テントの公演、唐十郎作の『盲導犬』を見たことがある。満員のテントの中にシュールな緊張感が走っていた。
それはさておき、入谷である。古い下町が残っている。
建て直された大正小学校にも窓の形などに昔のモダンが色濃く残っているし、昔の建物のままの酒屋さんも健在だ。地域の稲荷信仰も廃れたようには見えない。その中に、現代的な和風を売りにした民泊施設が点々と生まれている。
白水湯は、そんな街角を曲がった場所にあった。月のない夜に白水湯のネオンが目立っていた。
2年半前にリニューアル開店したらしい。マンションの一階にあり、それほど広くはないが、清潔感溢れる銭湯だ。
何よりびっくりしたのは貸タオルの値段が安いことだ。フェイスタオルにバスタオル、それにナイロンタオルまでついて100円だった。
「刺青、タトゥーお断り」とある。銭湯では珍しいかもしれない。看板絵はないが、白い清潔そうなタイルが浴場全体を覆っている。
ぼくはサウナは苦手なので入らないが、奥の設備は立派そうだ。
浴槽は、幾分深い薬草湯と少しぬる目の白湯だ。長時間入っていてもよさそうな湯温である。肩まで浸かると体がじんわり温まってくる。薬草の匂いがほんわりと鼻に届く。
壁に「白水だより」と題するラミネートされたニュースが貼ってあり、自由に手に取れるようになっている。
近くの安くておいしい居酒屋の情報なんかも載っている。個人の旅行記もある。
湯に浸かりながら、それを読んでいる人が何人もいる。ぼくも真似して、手に取って読んでみた。面白い。風呂の中で読むのは新鮮だ。
11月には酉の市がある。この酉の市は見ものだ。その時でももう一度街を歩いてみたい。
白水湯にもまた浸かってみることにしよう。

この句の季語秋

宵闇よいやみ

名月を過ぎ、月の出が遅くなって、宵のうちが暗いこと。