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春陰や人の歯垢をとる仕事

小山正見

ガリガリと歯垢をとる音。時計を見ると、治療を始めてから既に1時間経っている。
昨年から通っている歯科医院の一室である。
好きな人はいないだろうが、ぼくも歯医者が嫌いだ。
抜けた歯を20年以上放っておいた。それが、ある事情で歯医者に行かざるを得なくなった。
ぼくは、子供の時から歯は丈夫だった。
乳歯が頑丈過ぎて、抜けない。仕方なく、歯医者で何本も抜いたこともあった。
つい半年前のことだ。一本の歯がグラグラするので歯医者で診てもらったら、なんと乳歯だった。
歯の手入れも極めて杜撰だった。歯磨きも朝に一回だけ。しかも、形ばかり。いつの間にか歯磨き粉も使わなくなった。
歯の治療が一応終わったところで歯医者に言われた。
「これから定期的に歯の手入れをしてください」
断れる雰囲気ではない。
歯科衛生士さんに歯の手入れをしてもらうことになった。
この日は、その2回目だった。
「超音波を使うやり方もありますが、私はこの方が好きなんです」
と言いながら、器具で歯垢をとっていく。ガリガリと音が脳に響く。驚くほどの量の歯垢が取れていく。
しかしその間、口を開いているのは大変だった。歯科衛生士さんは、
「きれいになると嬉しくなりますから」
と笑う。一日中何人もの人の口の中を覗き込み、歯垢をとるという仕事。ぼくなら果たして出来るだろうか。
帰りに、次の回もこの方にしていただけるように予約をとった。