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秋の暮田園調布の散歩道

小山正見

ぼくは、田園調布という街を歩くのが好きだ。田園調布といえば、東京でも屈指の高級住宅街である。もちろんここに住むことはどんなに逆立ちしても無理だが、歩くだけならタダである。
ぼくは田園調布に強烈な劣等感を持っていた。理由がある。それは、ぼくが義務教育の9年間、いや高校も含めれば12年間田園調布に通い続けていたからである。
田園調布小学校、田園調布中学校、田園調布高校というのが、ぼくの学歴だ。
親は学芸大学附属小学校に入学させたがったようだが、入れなかったので、田園調布小学校を選んだのだろう。クラスには、頭が抜群に良かった子も多かったし、金持ちも沢山いた。遊びに行った家の庭で野球の真似事をしたこともあるし、飲んだことのないアフタヌーンティーをご馳走になったこともある。
「友達を自分の家には呼べないな」子ども心にそう思った。
田園調布はぼくには「敵わない」場所だったのだ。
しかし、今クラス会に行くと田園調布に今も住んでいるのはほんの数人。ほとんどの人が引退しているので同じような生活だろうが、この歳になると生活の違いも気にならない。
田園調布を歩いていると、「どこで買い物するんだろう」と思うし、お屋敷ばかりだと隣近所のつきあいも難しいだろうと心配になる。
家から歩いて2分でスーパーも喫茶店にも行ける元住吉の暮らしがどんなに楽かわかる。
しかし、散歩するなら田園調布は最高だ。太い銀杏の並木道を辿り、人通りのない桜並木を楽しむ。そろそろ紅葉の季節だ。ちらほらと葉が色付き始めている。様々に趣向を凝らした豪邸から柔らかい光が漏れてくる。家々の間を歩くだけで豊かな気分になる。
田園調布から多摩川の駅まで歩いて20分ほどだ。コースをいろいろに変えながら街並みを楽しむことができる。
夏頃から疲れやすく体調が今ひとつだったが、秋の爽やかな気候のお陰か、体調が戻ってきた。そこでようやく散歩をしようという気分になれた。
しばらくは、田園調布を楽しむことにしよう。

この句の季語秋

秋の暮あきのくれ

秋の夕暮れ。また秋の終わりの意にもいう。もの寂しい趣がある。